市街地住宅

 当時の住宅公団では「団地住宅」以外に「市街地住宅」という大きなソリューションがありました。高度成長期においては都市の郊外部に住宅の建設が集中し、その結果異常な通勤難と都心部の夜間人口の減少という状況をもたらしました。 いわゆる「ドーナツ化現象」と呼ばれるものですが、こうした状況を緩和すべく住宅公団は、都心部の未利用空間の高度利用・交通機関の負担の軽減を目的として、都心部再開発に寄与する市街地の住宅建設という事業を行うようになりました。市街地住宅には一般方式と面開発方式という2種類があります。


一般市街地住宅

 一般型はいわゆる「下駄履きアパート」と呼ばれるもので、低層部に施設、上層部に住居という複合ビルです。付帯施設としては、商店や事務所以外も、公民館、駅、消防署、病院、ボウリング場、放送スタジオ、能楽堂など様々あったようです。昭和32年の磯子アパートを皮切りに、昭和40年代以降もつくられました。六本木ヒルズ等、現在の複合ビルの先駆けと言えるかもしれません。昭和48年には公団初の20階建て超高層の兵庫駅前市街地住宅も誕生しました。   

 以下、日本住宅公団年報より抜粋。   
『一般方式は従来から実施しているいわゆる借地方式であり、住宅地として環境も良く、商店や事務所等適当な敷地を公団が借地し、古い建物等を壊して施設と住宅が一体となった新しいビルを建設するものである。この場合の施設は地主や借地権者に10年または15年の長期月賦払いで分譲する。施設は譲受人が自由に経営して良い事となっており、その用途も住宅の入居者に有害なものでなければ特に制限されることはない』


銘板あれこれ
一般市街地住宅の銘板プレートは表記方法が〜団地、〜アパート、〜市街地住宅、〜(市)住宅等様々で、その素材もいろいろあります。関東では骨白アクリルが多く、関西では黒御影石が多く使われているようです。
骨白アクリル 透明アクリル 黒御影 ステンレスヘアライン 骨白アクリル行灯風
鋳物 ステンレスミラー仕上 桜御影表札風 ステンレス塗装仕上

面開発市街地住宅

 一般市街地住宅における借地して建設する、という方式は広大な土地を確保したり、土地の高度利用が不十分であるという理由から昭和40年度より工場跡地等を買収して住宅を建てるという、面開発事業が行われるようになりました。従来の市街地住宅が点・線であったのに対し、面で開発することからこの名前がつけられました。従来1棟であった下駄履きアパートが数棟以上になった、もしくは下駄履きアパートが建つような場所に団地住宅が建った、というイメージでいいと思います。ボリューム的には、一般方式が1500平米以上であるのに対し、面開発方式は3ha以上とされています。  
 従来の郊外型団地住宅も時が経ち、周辺が市街地化してきているものもあって、立地条件的にはほとんど差異はなくなってきていますが、面開発として建てられた住宅はすべて高層で、特に40年代初期の住棟は外観にタイルやレンガを多用したエレガントなデザインが特徴で、高層ゆえの圧倒的なスケール感とともに「これぞ面市!」という存在感を醸し出しています。これもまた団地ファンに人気のあるタイプです。  
 面開発型の1号は森之宮団地とされていますが、昭和30年代にいくつか見られる下駄履きアパートと団地住宅が合体したような形態は中層ではありますが、概念的には面開発型の走りという気がします。特にそのなかの阪南団地1号棟はレンガ&タイル貼りで面市のプロトタイプ的な感じがうかがえます。  

 以下、日本住宅公団年報より抜粋。   
『面開発方式は昭和40年度追加事業から始められたものであり、既成市街地内の工場跡地等を全面買収して高層住宅を建設する方式であるが、工場の郊外への疎開による都市郊外の除去、公共施設等の整備による都市の再開発、および交通至便な既成市街地における住宅の供給という利点がある。なおこの方式においては、住宅の入居者、近傍の居住者等の利便の用に供するため住宅と一体として施設を建設するが、この場合の施設はすべて賃貸する。』

その他

 その他の公団の住棟タイプとして、個人事業者や法人の給与住宅として建設、分譲される特定分譲住宅があり、団地住宅や市街地住宅とはまた異なる独特の建築様式です。ここでは詳しい説明は割愛しますが、興味がある方のために参考文献を挙げておきます。  
 
※参考文献  
日本住宅公団年報1955-56年度版〜  
日本住宅公団10年史、日本住宅公団20年史、日本住宅公団史


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